令和5年度 事業再構築補助金の概要・変更点まとめ

3月24日締切りの第9回公募が始まっていますが、第10回公募以降の令和5年度の事業再構築補助金の申請枠・申請要件についてまとめました。
令和5年度は3回(第10回、第11回、第12回)の公募が予定されているとのことです。※2023年1月26日時点で公開されている情報を元にしています。まだ公募要領が発表されていませんので変更になる可能性があることをご承知おきください。

2023年3月30日付けの公募要領を基にした最新版はコチラをご参照ください。

また、公募内容は中小企業庁から公表された資料を元にしていますが、一部に資料から読み取った個人的な考察が入っていることをご了承ください。

変更点

2021年5月締切りの第1回公募から2023年3月締切りの第9回公募まで、何度かマイナーチェンジを繰り返してきた事業再構築補助金ですが、第10回以降は申請枠・申請要件が大きく変更されます。

申請枠について

第10回公募から、従来の「通常枠」「大規模賃金引上枠」の廃止を含め、申請枠の新設・再編が行われます。8つの申請枠を3つに分類してみました。

大胆な事業再構築(業種・事業・業態等)の転換を行う事業者向け

既存事業のおかれている事業環境、または今後取り組む事業に対して一定の基準がありますが、従来の基本要件のひとつである売上高減少がなくなりました。(コロナ以前との売上高の比較は不要・・・のはずです。)

成長枠 補助金を使って取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属する必要があります。
対象業種・業態はホームページで公開されるとのことですが、指定業種・業態以外でも要件を満たすデータを提示し認められれば対象となります。補助上限額2000万円~7000万円と、従業員数51人以上の場合は従来の通常枠と比較して引き下げられています。
グリーン枠 補助金で取り組む事業が、グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取組であることが必要です。
第6回以降からの継続枠ですが、グリーン成長要件(研究開発等に関する要件)を緩和したエントリー枠が設けられました。中小企業の場合、補助上限額はエントリー4000万円~8000万円、スタンダード1億円と、成長枠と比較くして高めの設定です。
産業構造転換枠 市場規模が急速に縮小した(している)業種・業態に既存事業が属している場合や、地域の基幹大企業が撤退することにより既存事業の継続が困難になり、事業再構築が不可避な事業者の申請枠です。補助上限額2000万円~7000万円と成長枠と同じですが、既存事業を廃業する場合は、廃業費も補助対象となり上限が最大2000万円上乗せされます。
対象業種・地域は、業界団体や自治体が申請することにより指定されます。
サプライチェーン強靱化枠 海外製造拠点を国内回帰するための補助金です。補助上限額5億円とかなり大きな金額になっています。
対象事業は、取引先から国内で増産要請があり、市場規模が10年間で10%以上拡大する業種・業態に限定されています。

業況が苦しい事業者向け

コロナや物価高騰により依然として業況が厳しい事業者や、最低賃金の引上げの影響を大きく受ける事業者が、新たな業種・事業へ進出することで収益を改善していくことを支援する申請枠です。

物価高騰対策・回復再生応援枠 従来の緊急対策枠と回復・再生応援枠を合わせた申請枠です。補助上限額1000万円~3000万円と、回復・再生応援枠と比較すると補助上限額UPですが、緊急対策枠と比較すると補助上限額DOWNです。
2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、2019~2021年と比較して10%以上減少している事業者、または中小企業活性化協議会等から支援を受け、再生計画等を策定している事業者が申請可能です。
最低賃金枠 従来の最低賃金枠の継続です。補助上限額は500万円~1500万円と低めですが補助率が中小企業で3/4と高く設定されています。地域別最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員の10%以上いることと、2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、2019~2021年と比較して10%以上減少していることが要件となります。

成長枠・グリーン成長枠と併用可能な上乗せ枠

以下2つの申請枠は単独で申請できる枠ではなく、成長枠またはグリーン成長枠の申請者が上乗せして申請可能な上乗せ枠です。(上乗せは第9回まではなかった概念です。)

それぞれの上乗せ枠に別枠で補助上限額が設定されるため、実質的に補助上限額が引上げられますが、補助事業終了後3~5年の間で、要件達成してから補助金が支給されます。なお、卒業促進枠と大規模賃金引上促進枠の両方を申請することはできないため、両方の要件に当てはまる場合どちらかを選択する必要があります。

卒業促進枠 中小企業者等から中堅・大企業等へ企業規模を拡大する事業者向けの上乗せ枠です。補助上限額は組み合わせる成長枠・グリーン成長枠と同じであるため、実質的に補助上限額が2倍になります。
補助事業の終了後3~5年で中小企業・特定事業者・中堅企業の規模から卒業することが要件となります。第1回~第5回までの卒業枠では事業再編要件というハードルが高い要件がありましたが、成長枠・グリーン成長枠との組合せが可能になることで、規模拡大を目指す企業にとっては使いやすい申請枠になると思われます。
大規模賃金引上促進枠 継続的な賃上げと雇用増加を行う事業者向けの上乗せ枠です。上乗せすることで、補助上限額の3000万円の上乗せだけではなく、成長枠・グリーン成長枠の補助率も優遇されます。従来の「大規模賃金引上枠」は独立した申請枠でしたが、上乗せとなることで使いやすさが向上すると考えられます。
給与支給総額の増加率が一定以上を満たさないと、補助率で優遇された補助金支給額(差額分)は返還する必要があります。

申請枠と対象事業の移り変わり

第1回の公募以降、事業再構築補助金は新型コロナウイルス感染症の影響により、業況が苦しくなった事業者が経済社会の変化に対応し、それにより日本経済の構造転換を促すことが目的です。第3回から最低賃金の引上げ、第6回からは事業再生に取り組む事業者やグリーン分野での再構築が追加され、第7回からはコロナだけでなくウクライナ情勢の緊迫化等による原油価格・物価高騰等へも追加されてきています。以下は、申請枠の変遷から事業再構築補助金の目的の変化を簡略化した図です。

第10回以降も基本的な目的は変わっていませんが、事業再構築の方向性として縮小・停滞市場から成長・拡大市場・業態への変化を強く促していることが見て取れます。また、昨今の物価高騰も原因の一つと考えられますが、サプライチェーンの安定化や地域経済の活性化を目的とした製造業の国内回帰を促す申請枠が新設されたことも注目です。

申請要件について

従来の事業再構築補助金と同じく、全ての申請要件で「事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む」ことと、「補助事業終了後3~5年で付加価値額(または従業員一人当たりの付加価値額)を一定以上増加させる」ことが必要となります。

付加価値額(営業利益+減価償却費+人件費)の増加率について

年率3%以上
産業構造転換枠、物価高騰対策・回復再生応援枠、最低賃金枠
年率4%以上
成長枠、グリーン成長枠(エントリー)
年率5%以上
グリーン成長枠(スタンダード)、サプライチェーン強靱化枠

業況・市場環境が苦しい事業者向けの申請枠では年平均3%以上の増加、成長市場への進出や補助金額が大きな申請枠では年平均4%または5%以上といった高い成長率が求められます。

給与支給総額および最低賃金の引上げについて

従来は「大規模賃金引上枠」のみに設定されていた「賃金引上要件」と類似の要件が多くの申請枠で追加されました。また、ものづくり補助金と同じような給与支給総額増加の要件も追加となっています。ただし、業況・市場環境が苦しい事業者向けの産業構造転換枠、物価高騰対策・回復再生応援枠、最低賃金枠では、給与支給総額や最低賃金に関する要件はありません。

給与支給総額・最低賃金に関する要件なし
産業構造転換枠、物価高騰対策・回復再生応援枠、最低賃金枠
給与支給総額年率2%以上増加、最低賃金が地域別最低賃金+30円以上であること
サプライチェーン強靱化枠
給与支給総額年率2%以上増加、事業終了時点で最低賃金を45円以上引上げ
成長枠、グリーン成長枠
給与支給総額年率6%以上増加、事業終了3~5年の間、最低賃金を年額45円以上引上げ
大規模賃金引上枠促進枠(上乗せ枠)

大規模賃金引上枠(上乗せ枠)は、給与支給総額年率6%(5年で30%)、最低賃金年額45円(5年で225円)とかなりハードルが高めですが、組み合わせる成長枠またはグリーン成長枠の補助率が中小企業で1/2から2/3へ引上げられるため、雇用拡大を計画している事業者はチャレンジする価値があります。
(なお、給与支給総額年平均2%以上増加を達成できなかった場合は、増額された補助金を返還する必要があと資料に記述がありました。事業計画としては年率6%UPの計画を作成し、補助金返還の条件としては最低年率2%以上と読み取っていますが、正式な公募要領発表後に確認する必要がありそうです。)

事業再構築を行い企業の立て直しを行うだけではなく、収益を従業員にも還元していくことが求められています。

まとめ

事業再構築補助金は回を重ねるごとに申請計画書のレベルは上がってきていると思われますが、第10回以降は再構築事業の将来性・優位性のアピールを更にレベルアップする必要がありそうだと感じました。

成長枠の対象事業となる業種・業態がどのようになるのかなどは、類型(新分野展開、業種転換等)や補助対象経費について変更があるのかは現時点では不明ですが、事業再構築方針の大筋は大きく変わらないと思われるため、再構築を検討している事業者は早めの準備を行った方が良さそうです。

第10回公募以降の申請枠ごとの補助金上限額・補助率・申請要件を一覧表にまとめました。情報量が多すぎて見にくいですが、ご参考までに。(横スクロールできるようになっています。)

情報は、2022年12月に公表された令和4年度第二次補正予算の概要(経済産業省)をもとにしています。実際の公募開始時には変更となる可能性もあるため、申請時には公募要領をご確認ください。

申請枠 対象 補助上限額 補助率 売上減少 付加価値額 給与支給総額 最低賃金の引上げ その他
成長枠 成長分野への大胆な事業再構築に取り組む事業者 20人以下:2,000万円
21~50人:4,000万円
51~100人:5,000万円
101人以上:7,000万円
(中小)1/2 (中堅)1/3
※大規模賃上げを行う場合
(中小)2/3 (中堅)1/2
給与支給総額年平均2%以上
未達成時は差額1/6を返還
年率4%以上 年率2%以上 事業終了時点で事業場内最低賃金45円の引上げ 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、
市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属する
グリーン成長枠
(エントリー)
研究開発・技術開発又は人材育成を行いながら、
グリーン成長戦略「実行計画」14分野の
課題解決に資する取組を行う事業者
(中小)
20人以下:4,000万円
21~50人:6,000万円
51人以上:8,000万円
(中堅) 1億円
(中小)1/2 (中堅)1/3
※大規模賃上げを行う場合
(中小)2/3 (中堅)1/2
給与支給総額年平均2%以上
未達成時は差額1/6を返還
年率4%以上 年率2%以上 事業終了時点で事業場内最低賃金45円の引上げ 取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発
又は従業員の5%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行う
グリーン成長枠
(スタンダード)
研究開発・技術開発又は人材育成を行いながら、
グリーン成長戦略「実行計画」14分野の
課題解決に資する取組を行う事業者
(中小) 1億円
(中堅) 1.5億円
(中小)1/2 (中堅)1/3
※大規模賃上げを行う場合
(中小)2/3 (中堅)1/2
給与支給総額年平均2%以上
未達成時は差額1/6を返還
年率5%以上 年率2%以上 事業終了時点で事業場内最低賃金45円の引上げ 取組に関連する2年以上の研究開発・技術開発
又は従業員の10%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行う
【上乗せ枠】
卒業促進枠
3~5年で中小企業・中堅企業の規模から卒業する事業者 成長枠・グリーン成長枠と同じ
※補助対象経費は分ける
(実質 上限を2倍)
(中小)1/2
(中堅)1/3
補助事業の終了後3~5年で
中小企業・中堅企業の規模から卒業する
(要件達成後に補助金支払い)
【上乗せ枠】
大規模賃金引上促進枠
継続的な賃金引上げと従業員増加に取り組む事業者 3000万円
※補助対象経費は分ける
(実質 上限3000万円上乗せ)
(中小)1/2
(中堅)1/3
年率6%以上 事業終了後3~5年の間で
事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引上げ
事業終了後3~5年の間で従業員数を年率平均1.5%以上増員
(要件達成後に補助金支払い)
産業構造転換枠 国内市場縮小等の構造的な課題に直面している業種・業態の事業者
対象経費に廃業費を追加し、廃業費がある場合は補助上限額を上乗せ
20人以下:2,000万円
21~50人:4,000万円
51~100人:5,000万円
101人以上:7,000万円
※廃業を伴う場合、
廃業費を最大2000万円上乗せ
(中小)2/3
(中堅)1/2
年率3%以上 下記のいずれかを満たす必要あり
①過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上縮小する業種・業態に属している
②地域における基幹大企業が撤退することにより、市町村内総生産の10%以上が失われる
と見込まれる地域に属しており、当該基幹大企業との直接取引額が売上高の10%以上を占める
サプライチェーン強靱化枠 海外で製造する部品等の国内回帰を進め、
国内サプライチェーンの強靱化、
及び地域産業の活性化に資する取組を行う事業者
最大5億円 (中小)1/2
(中堅)1/3
年率5%以上 年率2%以上 交付決定時点で事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い
(新規立地の場合は、最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高くなる雇用計画作成)
以下の要件を満たす製造拠点を国内回帰する事業であること
①取引先から国内での増産要請がある
②取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、
市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属する
物価高騰対策・
回復再生応援枠
業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者、
原油価格・物価高騰等の影響を受ける事業者
5人以下:1,000万円
6~20人:1,500万円
21~50人:2,000万円
51人以上:3,000万円
(中小)2/3
(※一部3/4)
(中堅)1/2
(※一部2/3)
(※5人以下400万円、
6~20人600万円、
21~50人800万円、
51人以上1,200万円まで)
下記いずれかを満たす
①2022年1月以降の連続する6か月間のうち、
任意の3か月の合計売上高が、
2019~2021年と比較して10%以上減少していること
②中小企業活性化協議会等から支援を受け、
再生計画等を策定していること
年率3%以上
最低賃金枠 最低賃金引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な事業者 5人以下:500万円
6~20人:1,000万円
21人以上:1,500万円
(中小)3/4
(中堅)2/3
2022年1月以降の連続する6か月間のうち、
任意の3か月の合計売上高が、
2019~2021年と比較して10%以上減少していること
年率3%以上 2021年10月から2022年8月までの間で、
3月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員の10%以上いること