損益分岐点売上高(Excelサンプルファイルあり)

おはようございます。林真史です。

事業計画を立てる上で「どのくらいの売上を上げれば利益がでるのか」といった基本的なことを把握するため、損益分岐点売上高を算出します。損益分岐点売上高は概念的には理解しやすいのですが、実際に算出すると結構面倒くさい指標だったりします。そこで、今回は損益分岐点売上高を実際の損益計算書から算出する方法について解説します。

損益分岐点売上高とは

計算式

損益分岐点売上高とは、名前の通り「損(赤字)」と「益(黒字)」の境目となる売上高のことです。売上が損益分岐点売上高を上回れば利益が出て、下回れば赤字となります。

損益分岐点売上高を算出するためには、費用を「固定費」と「変動費」に分解し、「変動費率」を算出します。
固定費:
売上の増減にかかわらず一定にかかる費用。例えば地代家賃・減価償却費・人件費など
変動費:
売上の増加によって増加する費用。例えば、材料費・外注加工費・販売手数料など
変動費率:
売上が1増えたときに増加する変動費の金額。(変動費/売上)

損益分岐点売上高

売上高から変動費を引いたものを限界利益と言い、限界利益が固定費を上回れば利益がでます。固定費=限界利益となる売上高を損益分岐点売上高と言います。

固定費 = 限界利益 = 損益分岐点売上高-変動費
    = 損益分岐点売上高×(1-変動費率)

上記の式を変形すると下記の通りとなります。

損益分岐点売上高 = 固定費 / (1-変動費率)

損益分岐点の計算例

例えば、下記の小売業のX社の場合は、売上高3,000,000円、固定費1,300,000円、変動費1,500,000円、変動費率 0.5 (150万円÷300万円)となり、損益分岐点売上高は 固定費130万円 / ( 1 – 変動費率0.5) = 260万円となります。

売上高 3,000,000
原価(仕入れ) 1,500,000 変動費
売上総利益 1,500,000
人件費 800,000 固定費
地代家賃 500,000 固定費
営業利益 200,000

実際の損益分岐点売上高の計算

勘定科目法

前述の例は損益計算書を単純化していますが、実際の損益分岐点売上高の計算においても勘定科目ごとに固定費・変動費に分類することで計算が可能です。(このやり方を「勘定科目法」と言います。)

勘定科目法で損益分岐点売上高を算出する場合も、通常は一定期間の平均値などを用いて季節変動や突発的な費用の発生などの影響を抑えて算出するのが一般的です。

勘定科目法の問題は、実際にはそれぞれの勘定科目が明確に「固定費」と「変動費」に分類するのが難しいことが多いです。例えば、人件費は売上にかかわらず必要な固定費ですが、繁忙期には労働時間の増加などにより費用が増大するため変動費的な側面も合わせ持ちます。このような場合は、過去の売上と費用の実績値から数学的に固定費と変動費率を算出する方法があります。

高低点法

過去の実績で最高の売上高の時の費用と、最低の売上高の時の費用から算出する方法です。(x: 売上高, y: 費用)とした場合、最高の売上高の時の(x1,y1)と最低の売上高の時の(x2,y2)を通る直線の傾きが変動費率、y切片が固定費となります。
固定費と変動費率が求められれば、前述の損益分岐点売上高の公式から算出可能です。

CVP 高低点法

最小二乗法

高低点法は、2つの(x,y)から算出するため、2変数の一次連立方程式で比較的簡単に求めることが可能です。しかしながら、過去の最高値と最低値の実績を元にしているため、イレギュラーな要素を含む可能性があり、そこから算出された損益分岐点売上高の普遍性に疑問が残ります。これらの要素を排除するため、過去の2点ではなく、過去の複数の売上と費用の組み合わせから、最小二乗法による近似直線を算出して固定費と変動費率を算出するのが最小二乗法です。高低点法と同じく、固定費と変動費率が求められれば公式から損益分岐点売上高が算出可能です。

CVP 最小二乗法

サンプルファイル

損益分岐点売上高の計算方法について説明してきましたが、手作業で計算するのはかなり面倒なのでExcelに損益計算のデータを打ち込んで損益分岐点売上高を算出するサンプルファイルを作成しました。

シート「損益計算書」に実際のデータを入れることで、シート「損益分岐点売上高」に算出結果が表示されるようになっています。勘定科目法と最小二乗法に対応しており、勘定科目法で算出する場合は勘定科目ごとに「固定費」「変動費」などを選択してください。「固定費」か「変動費」に明確に分けられないものは「固変混合」を選びおおよその固定費割合を設定できるようにしています。

また、最小二乗法で算出する場合は、売上と費用の実績値のみが必要であるため、勘定科目ごとに細かく数値を入れる必要はありません。(ざっくり原価、販管費のみを入れるということでも大丈夫です。)

サンプルファイルにはサンプルデータが入力されているので、それを参考にシートを書き換えてご活用ください。マクロなどは利用していませんが、所々複雑な関数を使っているのでセルに色がついているところの数式は変更しない方がよいと思います。不明点あればコメントください。

2023年6月24日追加 サンプルファイルの説明も行っている動画を公開しました!